「白桜様。お茶の替えをお持ちしました。入ってもよろしいですか?」
「あ――ああ。結蓮(ゆいれん)、手間をかけるな」
いいえ、と、襖を開けてやってきた少女は、柔らかく微笑んだ。
現在、月御門別邸には、俺と幼馴染の百合姫のほかに、三人の家人がいる。
三人とも御門一派の人間なのだが、霊力が弱かったりなかったりと、陰陽師としては生きにくい者たちだ。
他にもじい様が別邸に、とつけた家人もいたが、そちらは一人前に巣立ちしている。
結蓮たち三人は霊力が弱いことを蔑視されていたと知り、当主を祖父から継いだときに別邸に呼んだわけだ。
俺は当主であったじい様とともにそのほとんどを別邸で過ごしていて、京都の本邸に帰るのは大きな用事があったときくらいだ。
苗字は皆『月御門』で、結蓮、牡丹(ぼたん)、華樹(かき)の三人が別邸にいる。
結蓮は十四歳で、三人の中で一番年下だが、調理場を取り仕切っている。
「ん? 結蓮?」
盆に茶器を載せて来た結蓮が部屋に入って座ったところで、ふっと止まってしまった。
結蓮の顔の前で手を振ると、はっとしてから慌てだした。
「も、申し訳ありませんっ」
「いや、大丈夫か? どこか不調でも?」
心配になって問うと、結蓮は「大丈夫ですっ」と顔を紅くさせた。
「その……白桜様と黒藤様が……お美し過ぎて……」
「……は?」
「へ、変なことを申し上げてすみませんっ。ただ、その……」
「お、おう?」
結蓮の言葉の意味がわからず続きを待った。
「なんだ? 結蓮。俺と白がお似合いか?」
「馬鹿じゃねーのかお前は」
振り向かずに黒を一刀両断したが、結蓮は更に顔を紅くさせた。
「……結蓮……」
がくっと肩が落ちる。どうやら黒は正解を言ってしまったらしい。
「あ、私は腐ではありませんからっ。た、大変失礼を申し上げますが、白桜様の透けるようなお美しさがまこと女性のようで……そ、そういう意味でお似合いだということですっ」
どういうことだ。
隣の黒藤は、くつくつと笑っている。
こいつは意味がわかっているらしい。悔しい。