「なんで?」

「……真紅は、家族を大事に思ってる。真紅には紅亜(くれあ)様しかいなかったから、紅亜様から引き離すこともしたくない。紅緒(くれお)様や黒藤(くろと)も、真紅の大事な『身内』だ。何より、真紅が『理由』になるほど大切にしている梨実との仲を引き裂くことも出来ない。それに陰陽師ってのは、真紅が自分で選んだ自分の居場所だ」

「ないないづくしだね、お前は」

ふう、と息を吐く澪。そして、薄ら笑みを浮かべる。

「そんなお前だから、お嬢さんは毎日惚れ直してるのかもな」

澪のからかうような言葉に、更に眉間のシワを深くした。……そんな自信、持てるわけがない。

「自分の家族も大事にしてくれる。――それってお嬢さんにとっては結構でかいと思うよ」

「………」

「あと、何度も言うけど。お嬢さんは流派からの批判も反対も覚悟でお前と付き合ってる。それをお前が先に負けてどうする」

そんなのただの負け犬だ。澪の暴言にも、何も言えることがなかった。

部屋に戻って、一人きり。

昼はあんなに抱きしめたのに、今、その熱はない。

自分の右手に視線を落とす。

確かに真紅の腕を捕まえた。なのに、そこに留まってはくれなかった。

真紅は、この腕の中には居てくれなかった。

ただ、ずっと抱きしめていたいだけなのに。

……それが不可能だということを今日知った。

恋愛の常套句(じょうとうく)は、実現不可能なものばかりだ。

「……情けねー……」

好き過ぎてどうしていいかわからないなんて。

明日から、真紅とは少し離れる。その間に考えをまとめよう。

真紅に対して、どう接したらいいのか。

……ただ愛しているだけでは、一緒にはいられないのが現実のようだから。