「………」
それでも。
「でも俺は、あいつとずっと一緒にいるって決めた。悩んで困ってる真紅を、見てるだけしか出来ないのか……?」
「出来ないよ」
澪の言葉は簡単で、怜悧だった。事実だけを告げる。
「陰陽師のお嬢さんに、黎は何も出来ない。――それを覚悟していないと、お前はお嬢さんの傍に居る資格はないと、俺は思う」
反対に、と澪は続ける。
「お嬢さんも、どんなに苦しくてもつらくても、誰も、お前も頼らないって覚悟している。だから今日、お前は突き放された。でも、お前と付き合っていく意思を変えていない。当主候補のお嬢さんが、反対に遭うことは目に見えていてもお前との将来を望んでいる。――お嬢さんの方がずっと先に、お前と一緒に居る覚悟を決めてるから、そういうことをしたんだと思う」
「………」
陰陽師の、覚悟。
「お嬢さんは、生きていく覚悟をしたんだ。お前と一緒に生きていく、覚悟」
「………」
真紅の覚悟を、自分は邪険に出来るか? 出来るわけがない。真紅の生き様にも惚れている。真紅の全てに惚れこんでいる。
「一つ、簡単な方法がある」
「………」
「お嬢さんを影小路から攫(さら)ってしまえばいい」
「―――――」
「どこか、影小路の関係しない場所で、二人だけで生きていけばいい。そうなればお嬢さんは、陰陽師として生きていくこともないし、お前に頼ることも甘えることも出来る。お前の父親が、母親を国から連れ出したように。――簡単だろ?」
挑発的な澪の言葉に、渋面を作る。
「……それは出来ない」