「……まさか本当に――

「梨実との関係は、そういうんじゃないってはっきり言われた。でも、理由は誰にも話せないって」

「……それで喧嘩?」

「言いたくないことなら言わなくていいって言ったのに、なんかあいつ、いつもと様子おかしくて……」

「……お嬢さんと海雨ちゃんが付き合ってるとか、お嬢さんが海雨ちゃんを好きだって可能性はなしにしていいのか?」

「それはナシでいいみたいだ」

真紅、俺を、『自分の男』だとはっきり言った。

「……そっか。はー……」

澪が安堵らしいため息をついている。そりゃ、お前はそれで問題解決だろうけど。

「なんであいつ、俺を頼らねえだよ……」

思わずつぶやけば、澪は顔をあげて「当り前だろ」と返して来た。

「俺は見鬼ですらないからわかったようなことは言えないけど、じいちゃんの――小埜古人の孫だ。陰陽師が誰も頼れないのは知ってる」

「……どういう意味だ? 頼れないって」

澪は座り直して俺の方へ向きを変えた。真面目な顔で話し始める。

「陰陽師が背負うのは、人の闇の部分だ。二大大家である月御門も影小路も、見てわかる通り『月』と『影』って、闇を含んだ名前をしている。陰陽師は依頼主を裏切れない。依頼主の存在すら隠さなければならない。だって闇の請負人の陰陽師を頼るような問題を抱えているんだ。それこそ昔は政権争いの道具にされていたけど、今の世は違う。困っていることの解決を、陰陽師に頼ってくる。頼られた人が誰かを頼れるか? 普通なら可能だろう。持ちかけられた相談事も手に負えなくなれば、別の頼り手を探してもいい。けど、陰陽師はいわば最終兵器だ。陰陽師より先の頼り手はない。――だから、陰陽師は誰も頼れない。自分の足で立って、総て自分のうちに抱えて、依頼を完遂するしかない。もし頼るとするなら、自分より強い陰陽師くらいだ。お嬢さんは今、影小路内部では黒の若君に次ぐ位置に見られている。……お前の『頼ってくれ』は、影小路の道を選んだお嬢さんには届かない言葉だ」