言いたくないことを言わないでいいと言ってくれるなら、何も言葉せずにただ、抱きしめていてほしい。そして、戦場(いくさば)へ赴く自分を、そこで待っていてほしい。
黎のところへ帰りたい。
けれど、私の目の前に問題が提起されているとき、黎を頼ることは出来ない。
自分の中で総て抱えて、総て解決策を講じなければならない。
黎の腕の中に、安息の地を求めることは出来ない。
一瞬でも、問題から目を逸らしてはいけないから。
そして今が、そのときだった。
目の前に転がって来た、影小路を根本から揺らがしかねない問題。その鍵を握っているのが海雨で、影小路で唯一それを知っているのが私だ。
黎の腕の中で、安心した気持ちになっている余裕は欠片もない。
黎のことを突き放してしまった。
でも、
「……これで、いいの」
これしか、ないの。
せめて黎を、巻き込みたくない気持ちも確かにある。