《……巫女様》

「いいの、紅。これで、いいの」

次々とあふれてくる涙を何度も拭う。私にはこうするしかない。こうするのが一番の道だ。

この業(ごう)だけは、誰にも明かせない。

――影小路に入る前、白ちゃんに言われていた。陰陽師としての覚悟を問われたとき。

『……陰陽師となって知ったことを、墓場まで持って行く気概があるかどうか、だ。伴侶や親と言えど口にしてはならない依頼を、多く受けるのが陰陽師だ。依頼の内容や結末に心を痛めても、その理由は誰にも話してはならない。悟られてもならない。口に出して辛さを緩和することは、俺たちには赦されない。……それでも、望むか?』

『守秘義務なんてものがある以前からの、陰陽師の掟。破れば相応の罰を喰らう、法理よりもいにしえの、人の約束だ』

……今、私に対してそれが試されているのかもしれない。

《巫女様……旦那様なら、受け止めて下さいます》

「うん。わかってる。でも、ここで頼ってはダメなんだ」

私は、生きることを決めた。

影小路の一人として。

紅が、頬ずりをしてきた。

《せめて紅のもふもふ効果で癒されてくださいまし》

必死に私を慰めようとする小さな妖異の優しさに、今度は唇噛んで涙をこらえた。ぎゅっと、紅を抱きしめる。

――本当は、傍にいてほしい。