「真紅!」

真紅の住む影小路の家への道の途中で、その腕を掴まえることが出来た。

腕を引いた勢いで俺を見上げて来た真紅の両瞳は濡れていた。

「な、いてるのか……? お前、ほんとどうしたんだよ――」

「な、何でもないっ」

真紅が慌てて服の袖で目元拭う。灯りが点いた街灯の下、こすれて紅くなるのが見えてその手を止めさせた。両手首を握った格好で真紅を見下ろす。

「真紅、さっき澪に言ったこと聞こえたんだけど……梨実って、お前のなんなんだ?」

「………」

真紅は答えず、瞳を逸らした。

「……お前の男は、俺だよな?」

「……うん」

「じゃあ、真紅は?」

そう言葉を変えて問うと、真紅が勢いよく見上げて来た。

「黎の! です! ……ごめん、海雨のことはそういうのとは意味が違うって言うか……黎には、話しちゃいけないことなの」

「なんで?」

「……黎、だけじゃない。誰にも、話せないことなの。紅緒様にも、黒ちゃんにも白ちゃんにも」

「……その面子(めんつ)ってことは、家の関係なのか?」

「――ごめん。これ以上は言えない」

「真紅の仕事のことなら踏み込みはしない。余所者が踏み入っていけないことは承知しているつもりだ。けど、

「これ以上は言わせないで!」

俺の言葉を遮って真紅が怒鳴った。さすがにそれには納得いかない。

「言わせるつもりじゃない! 言いたくないことなら言わなくていい!」

「ならなんで探るみたいなこと言うの⁉ 私しか知らないでいいことなんだよ!」