「これは真紅嬢、こちらへおいでとは珍しいですな」

小埜家の門を叩くと、澪さんの祖父の小埜古人(おの ふるひと)さんが出迎えた。

「澪さん、いますか? すぐに話したいことがあります」

「澪なら部屋ですが……」

「すみません、お邪魔します」

礼を欠いている自覚はある。けど、今はそれどころではない。戸惑う古人さんを置き去りにして、澪さんの部屋の襖を開けた。

「え、お嬢さん?」

テキストやらノートやらを手に本棚に向かっていた澪さんが驚きに声をあげた。

「黎ならたぶん、自分の部屋だと――

「澪さん、海雨に交際申し込んだって本当ですか?」

問うと、澪さんは瞬時に顔を紅くさせた。

「お、お嬢さん、それ誰から――

「駄目です」

「え……なんでお嬢さんにそんなこと――」

「絶対、ダメです。――海雨は私のお姫様だから、澪さんにはあげられません! 海雨は影小路と関係のない人じゃないと認めません! だから諦めてください!」

言うだけ言って、私は引き返した。廊下でかち合った古人さんに「いきなりすみません」とだけ詫びて、小埜家を出た。