「―――」
「父上は俺の所為で消えてしまった。母上が俺を、少なからず恨んでいておかしくない。俺が生まれなきゃ父上は生きていた。……そんくらい、俺も考えるよ」
「………」
視線を、黒から自分の足元へ向けた。
黒が生まれたために消えた父、鬼神・無涯(むがい)。
俺に自分の未来を渡した母・白桃。
俺は、父のことも母のことも、人づてに聞いた話でしか知らない。だが、黒は……。
「母上から、一緒に暮らさないかって言われた」
「! 紅緒様が? なら、真紅たちと一緒にということか?」
勢いよく顔をあげると、黒は微苦笑を浮かべる。
「断ったよ。俺が傍にいれば母上は苦しくなるだけだ。父上を思い出させるこんなツラ、見ていたくないだろうし」
「……だが、お前がいることで紅緒様は無涯を忘れないでいられるのではないか?」
「……母上はもう、忘れていいと思うんだけど……違うかな」
「……わからないな。黒は、無涯のことは抜きにして紅緒様と暮らしたいとは思わないのか?」
「無理だよ。俺は、誰かと一緒にいるのは苦手だ。縁たちだけで十分だ」
「………でも、お前はよくここに来るじゃないか」
「白がいるからな。言ったろ? 俺は白の傍でしか生きられない」
横目で見てくる黒に、いつものごとくため息を吐いた。
「……俺はいつお前の命を背負ったんだ」
「白が俺の名前を呼んだときかなー」
さっきまでのシリアスな雰囲気もどこへ行ったのか、黒はいつもの間延びた感じで言う。それから何故かにやにやとしている。……なんだってんだ。軽く睨んだ。
「いやー? 俺と双児だったかもって、それって俺と白が夫婦だったらすっげ仲良しだったってことだろ? 白が無意識にそう思ってくれてるんだなーって」
「? ………――――っ! そ、そういう話じゃないだろ! バカなこと言ってんな!」
「あはは。今気づいた? 白は可愛いなあ」
「もう黙れお前!」
無意識の失態に顔が熱くなる。そんな俺を見て、黒は楽しそうににやにやしている。