たたずんでいた女性に向かって声をかけると、ぽんっとその姿は三毛猫に変わった。

紅は私の許まで駆けてから文句を垂れた。

《巫女様っ。かようなやり方、いい加減お止めください! 巫女様に何かあったら紅はどうすればいいんですかっ》

紅は、今回の昇華対象が私に対して攻撃をしたことを気に病んでいるようだ。

紅は攻撃や防御の術(すべ)を持たない。変化の妖異でしかないから。

「ごめんごめん。でも、今のとここれが私に合ってるから。紅が気を引いてくれるおかげで、私は安心して呪縛紋(じゅばくもん)張れるし」

紅が、対象の胸中にある姿――気を引く姿――に変化して意識を向けさせる。

その隙をついて私が、対象の行動を封じる術を発動させる。『紅姫』が私と出逢い式になってから、二週間。このスタイルを作っていた。

けど、攻撃も防御も、対象の説得も私が引き受けているこの状況が紅には歯がゆいらしい。

《巫女様、それならどうか、他にも式をおつけください。せめて巫女様をお守りする力のあるものを――》

言葉の途中の紅を抱き上げる。そのまま肩に乗せた。

「うーん、それでもいんだけど……今はまだ、紅と二人きりって、ダメ?」

私の言葉に、紅は一瞬声を詰まらせた。

《し、式に色目使ってどうするんですかっ。そういうことは旦那様に仰ってくださいっ》

色目って言われた。私は半眼になった。紅は黎のことを『旦那様』と呼ぶ。確定らしい。

《今日だってハート満載なことになりそうだったから、紅、海雨様のところにいたんですよ。おかげで聞いてしまいましたが》