夕闇にぽうっと浮かんだ女性の姿に、その影は足が縫い止められたように動きを止めた。

女性は、影に向かって手を差し出す。淋しそうな表情で。

影は、その手を摑もうとする。けれど呪縛に囚われている影は、そこから動けない。

「言いたいこと、あるんですね?」

女性と影の間に、割り込んだ。

影は、はっと息を呑んだように身をすくめた。

「思い残りが大きすぎて、この世に留まってしまっているんですね。言いたいこと、言っていいですよ?」

私は下げた腕――左手で、影を呪縛の紋に捕らえておくための印を組んだまま告げる。

《…………――――》

影は、私が動きを封じていると悟って、その束縛を逃れようと私の方へ腕を振り下ろした。生まれたわずかな風が斬撃のように威力を伴ってこちらへ襲い掛かる。私はそれを、扇を手にした右手を横凪ぎに払って相殺した。

影はその現象に驚いたのか、身を引くような動作をした。

「残念ながら」

パサリと扇を開く。

「五行(ごぎょう)に準ずる攻撃は受け付けません。『過去の私たち』が、この魂にそう刻んでしまったので」

無表情を心掛け、淡々と告げる。

五行――木火土金水(もっかどごんすい)が生みだす攻撃は効かない。先ほど影が私に向けたのは、風を刃のようにしたものだ。

抗う術がない。そう感じたのか、影は足掻くことを止めた。

《……違うんだ》

長い沈黙のあと、影は声を押し出した。