「言ってないけど。梨実とそう話すほどの仲でもないし」
「そうか――
「でも真紅軽油では聞いてるかもな」
「盲点! お、お嬢さんから流れてる可能性あるのか……」
安堵した澪が再び何かに突き落とされたようだ。
「なんだ? じじいの命令だったんだから真紅は知っても問題ないだろ」
「海雨ちゃんに知られてたら最悪ってことだよ! 野郎が野郎に血ぃあげてたって相当気味悪い関係だよ! なんで俺がお前のために指切ってたんだよ今頃後悔が激しい!」
「お前の血は不味いからもういらねえ」
「てめえがもう吸血鬼じゃねえだろ! うわーやっちまったー……お嬢さん、海雨ちゃんに隠し事したくないみたいだから、絶対知られてる……」
そうだろうな。とは思ったけど、澪が珍しく本気で落ち込んでいるので言わないで置いた。
「お前、ガチで梨実に気ぃあるんだな」
「は? 急になに」
「いや。お前がそこまで動揺するのも、一人の人間に左右されんのも、初めて見たから」
「………」
「急に可愛いと思った、って、後付けの理由だろ。そう繕(つくろ)わないと、理由がなかった。お前が告ったのは、単にあふれたからだろ。コップの水みたいに」
「………」
コップに水を入れて行けば、やがていっぱいになる。それでも入れ続けたら、コップからあふれて流れ出るだけだ。
推測するのは、それが澪の梨実に対する気持ちだったということだ。
澪も自覚がないほど静かに、梨実への気持ちは満ちて行った、と。
「……お前とこういう話マジメにするの初めてだけど、」
「なんだよ」
胡乱な澪に、真面目に言った。
「薄ら気味悪いな」
「もうなんでお嬢さんがお前みたいな人間失格に惚れたのか謎過ぎて困る」
「元が人間じゃねえからな」
今はただの人間だけど、と付け足して置いた。