「……黒は、過去世を信じるか?」

「否定はしねーが、憶えていたいもんでもねえな。俺は自分の記憶だけでも持て余してる。白は?」

「……記憶はない、が……」

「ん?」

「俺もなんとなく、なんだが……いつか思い出すんじゃないかって、気がしてる」

「………」

俺にあるのは、月御門白桜の意識と記憶だけだ。

だが、自分の知らない――『まだ知らない自分』は、この身体のどこかにいるのではないかという気がする。

これが陰陽師の勘なのか、人間としての感覚なのかは、陰陽師でない時間のなかった俺には判別がつきかねた。

「……過去世の白の旦那も、俺だったらいいなって、言ってもいいか?」

「……そしたらお前は俺と現世で双児だったかもしれないぞ?」

「それもよく聞く話だけど。……んー? なら同性の双児はどうなるんだ? どっちかが性転換してるのか?」

黒が大真面目な顔でバカなことを言っている。着眼点そこか。

「お前の母上が双児じゃないか」

「ああ、だからあんなに紅亜様のことが大すきなのか。なら前世では母上が男だったんだな」

そこで始末をつけるな。納得納得とばかりに大きく肯いた黒に、冷ややかな視線を向ける。

仲の良い恋人が、来世で双児に生まれるという俗説のことだ。

「大丈夫だよ」

「……あ?」

胡乱に見上げると、ふと黒が柔らかい笑みを見せた。

「俺が居るのは白のとこだけだ。白にいらねえって言われても居るからよ」

「………」
 
……視線が俯く。真実(まこと)は女性であっても、男としてしか生きることの出来ない自分。

その理由がないと、生まれて来られなかった自分。

母が、未来と引き換えに遺したこの命。

御門流が当主を務めるより難題な、この命の生き方。

父様の、母様の死の上に立って生きる。

黒藤が、何気ない風に呟いた。

「俺なー、白がいなきゃダメなんだよ」

「だから、そういうこと言うからお前は――

「白が傍にいねえと、呼吸(いき)が出来ねえんだ」