やっぱり、夜遅くまでトレーニング室はあかりが灯っていた。王女は俺を倒すために鍛える。でも、俺の強さは実力ではなく、魔法のお陰だ。

 どんなに強くなっても、俺にかなうわけがない。人生は不平等の連続だ。

 俺は決死の思いで誘ってみた。
「クリスマスイブに何をしている? ちょっと外に出掛けてみないか?」

 王女を外に誘うことは禁止されている。
 勝手な外出はだめなことはわかっている。
 それは王女もわかっていることだった。

 でも、一年限定のイケメンの俺は、今年を逃したら来年はない。
 来年はきっとここにはいられないだろう。
 魔法が解けたら別人なのだから。

 王女が俺の問いかけに答えた。
「パーティーはもういいのか? 今からどこへ行くのだ?」
 少しだけ俺の誘いに食いついてきた。

「一時間くらいバイクでちょっと出掛けてみないか?」
 やっぱり、断られるかな……俺は内心ドキドキしていた。

「たまには出かけてみるか」
 意外にも王女は乗り気だった。

 王女は思わぬ提案をしてきたのだった。
「貴様が言っていた幻のラーメンを食べてみたい」
 

 王女は外の世界を知らない。
 この国の姫君なのだから当然ながら、超箱入り娘である。

 ラーメン屋に入ったこともなければ、1人で外に出かけたこともない。
 いつもボディーガードが複数ついている。
 今夜は俺がボディーガードだ。一年限定だけど、最強なのだから。

 王女のラーメンが食べたいという提案に心の中で思わず突っ込む。
 クリスマスイブにラーメンかよ?
 きっと今日、ラーメン屋は、がら空きなはずだ。王女の考えていることは一般人には理解できない。どんな高価な店よりも、国宝級の建物よりも、王女にとってラーメン屋がとても興味のあるものなのだろう。


 俺は一押しの幻のラーメン屋に向かった。
 そこは、 男1人が食べに来るような古びた油まみれの店で、国王の娘である王女が行くことは、絶対に一生ないような店だった。

 俺は自慢のバイクに王女を乗せて、冬の道路をぶっ飛ばした。あまり長時間不在だと周囲にばれてしまう。タイムリミットは一時間。こっそりうまく城を抜け出すことができた。襟ぐりの開いた服を着ていた王女の寒そうな首に俺のマフラーを巻いてみる。彼女は嫌がるそぶりも見せずマフラーを受け入れた。

 小デブのブサイクがバイクに乗っていても、さっぱり格好がつかないが、イケメンのスタイル抜群な男がバイクに乗るとかなり見た目がいい。これがドラマだったら、さまになるだろう。一年間だけ、せいぜい格好つけさせてもらうぜ。

 冬の風は冷たい。
 頬が痛い。
 王女がバイクにニケツなんて、前代未聞だろう。
 いずれ俺は消える。
 少しくらいのヤンチャは、許してくれ。
 俺の今しかできない、思い出作りなのだ。

 王女は、一目惚れの初恋相手だ。一緒にいたい。

 王女の腕が俺の腹の辺りを締め付ける。
 ブサメンだったころの俺なら腹が出ていてプニプニだった。
 全然ドラマチックじゃない。
 しかし、今の俺の腹筋は割れて脂肪はない。魔法の力だがな。