これは、ここへきて、まだそんなにたっていない頃の話だ。王女は、クリスマスだろうと毎日剣術の修行を欠かさない。当時は、俺との勝負に負けたことが悔しくて、俺を倒すためだけに、執念も合い混じって特訓に精を出していた。勝ち逃げされることは、彼女のプライドが許さないらしい。

 戦うこと、勝つことしか眼中にない王女は、楽しさも悲しさも――何もそこにはないようだった。

 俺は、努力して強くなったわけでもなく、今現在は世界一の強さだろう。
 しかしながら、本当は中の下程度の強さなわけで……。
 一応、魔法が解けたときのために修行はしている。魔法が解けたら、弱小の俺は間違いなく王女に殺されるだろう。瞬殺だ。

 しかし、魔法でイケメンになったとか強くなったっていう話は、誰も信じてはくれないだろう。

 だとしたら……逃げたとしたら、本当の俺の顔を知っている者はいないから、永久に捕まらない。しかしながら、王女と結婚することもできない。実に難解な問題だ。


 王女は異性としての意識を俺に対して持っているとは思えなかったし、1年限定のイケメン期間だからこそ、普段できない経験がしたいという気持ちにもなっていた。

 クリスマス会にはかわいい女の子が来るらしいとか、今夜は飲み明かそうとか、戦士たちの会話が自然と王女の耳にも入ったのだろう。

「せいぜい楽しんで来い。私は貴様が遊びほうけている間に、強くなって貴様を倒す。覚悟しろ」

 俺、悪役か何かですかね? 王女の中では俺は倒すべき相手で、友達になるとか情というものは芽生えていないようだった。冷たい機械人間といわれている王女だから仕方ないのかもしれない。

「せっかくのクリスマスイブ、楽しまないのか?」
 俺が聞いた。しかし、彼女にそんな質問は、野暮でしかなかった。