桜葉に抱き着かれた。

「うわああああん! ひむろくんだあああああ!」

意識が戻ってすぐの氷室は、わけがわからず泣きながら抱き着いてくる桜葉にはてなマークが浮かぶだけだった。え、なにごと? 俺、起きただけだよな? と、最初は意識の混乱もあったが、医師や家族から状況の説明を聞いて事態を把握した。

――頃に、鬼の存在も思い出していた。

櫻という名の、鬼。自分を幽鬼にして生き永らえさせ、そして自分に命をくれた。

優しい鬼の名。

最後の方で出てきた二人の女性はよくわからなかったけど……櫻の仲間なんだろう、きっと。

「氷室くんお疲れ様~」

「ただいま、桜葉」

リハビリから戻った氷室は、桜葉の頭に手をかけ引き寄せ、その額に口づけた。真っ赤になる桜葉だが、抗議の声はあがらない。

「だ、だいぶ慣れてきたみたいだね」

「うん。やっぱ慣れだな」

氷室は、車椅子が手放せなくなっていた。下半身不随。事故の後遺症だった。

だが、その事実を告げられたときも、実際に車椅子を使ったときも、氷室は前向きで明るかった。

「うまく使えるようになったらさ、車椅子テニスとか、車椅子バスケとかやりたいんだ」

「いいね! 氷室くんどっちも似合う! カッコいい氷室くんにまたファンが増えちゃう」

嬉しそうに、でも困ったように笑う桜葉。

桜葉は氷室のやりたいことを、無条件で応援してくれる。