「桜葉……」

「いやだよ……氷室くん、私を置いて行っちゃ……お願い、どんな形でもいいから、私の隣にいてほしい……私が、そっちに行ってもいいから」

桜葉の、精一杯の思い。本当の本当の、本来ならば口にすることは禁忌の本心。

氷室は心臓を撃たれたかと思った。桜葉の言葉の威力はケタ違いだった。

「桜葉……ありがとう。桜葉の気持ち、嬉しい。俺も桜葉が大好きだよ。愛してる。……俺は桜葉の心に棲みつくよ。桜葉が呼べばいつでも桜葉を護る。だから、」

「氷室く――」

『なあにカッコつけてんだ馬鹿野郎』

『え――』

ぐいっと、背中から引っ張られて桜葉の姿が見えなくなってしまった。そんな、これが本当の本当に最期なのに――

『櫻!』

周りを見れば、病室から一転、教会の桜の下にいた。

『櫻! なんで、』

『だーかーらー、勝手に最期とか思ってんじゃねえって言ってんだよ』

『は? 刻限まで少しだと櫻が言っただろうが! 消えるときくらい桜葉のこと見ていたい!』

『本当は、李の大事な奴にやろうと思ってんたんだけど、お前も一応李の大事な生徒なわけだから、お前にやることにしたわ』

『……だから何を言って――』

『今代(こんだい)の俺の命、お前にやる』