「桜葉」

「いやっ!」

伸ばされた、触れられない手を振り払う。

「いやだから……氷室くんが抱きついてこないなんておかしいから!」

「桜葉」

氷室の、両腕が―――桜葉を包んだ。

「逢いたかったよ、桜葉」

触れない。体温を感じない。それでも……氷室の香りがする。ずっとずっと、また近くに感じるのを待っていた香り――……。

「桜葉」

「……うん」

「桜葉」

「……うん」

触れない腕の中で、氷室に応える。氷室の声が聞こえる。ずっと聞こえるのを待っていた声だ。

「桜葉……待たせた?」

「待ったよ……ばかぁ……っ」

本当に。

ずっとずっと―――待っていたのに。

「氷室くん、全然起きない、しっ、全然……っ」

涙が、次から次へと桜葉の頬を伝う。涙が桜葉の言葉をつかえさせる。

逢えたら――もう一度でも逢えたら、言いたいことがたくさんあったのに。喉がうまくうごかない。

「桜葉。ごめん、俺――
「大好き!」

この状態の刻限があと少ししかないと感じ取った氷室が言葉を終える前に、桜葉が大粒の涙をこぼしながら叫んだ。すき、すき、大好き。なんで、なんでもっと早く言えなかったんだろう。こんな状態で伝えることになるなんて――。