氷室の声がした。「桜葉」と呼びかける優しい声。

「……氷室くん?」

『桜葉……っ』

どこ? 氷室くん、どこにいるの?

桜葉の視線が、眠る氷室の身体から離れた。

『桜葉―――「桜葉。逢いたかった」

氷室の姿が、いきなり目の前に見えた。

「―――っ、氷室くん……!」

何で? 何で何で何で? だって氷室くん……眠って……。

「氷室……くん? ほんもの……?」

「本物だよ。桜葉に逢いたくて出て来ちゃった」

へへっと笑う氷室は――眠る前と変わらなかった。

「ひむ……っくん!」

桜葉は氷室に抱きつく。―――けれど。

「……氷室くん……」

伸ばした手は、氷室に届かなかった。するりと、すり抜けてしまう。

「………ごめん、桜葉」

氷室が、済まなそうな顔を傾げる。………っ。

「これ……夢だよね……?」

桜葉は虚ろな笑顔を浮かべて口を開いた。

「夢だから……氷室くんが出て来たんだよね………? それで、目が覚めたら……氷室くん、起きているんじゃないのかな……?」

「……ごめん」

氷室は謝るばかりで。桜葉の言葉の否定も肯定もしない……。