「だーっ! ボケひむがイラつくんだよ! よしゆーり! マジックペンくれ! 顔に何か描いてやろう!」
「賛成―!」
いそいそとペンケースを漁る結優人と戒。何だかんだで似た者同士だ。
「寝てる氷室先輩がいけないんだもんね。ここは王道で目描いちゃう?」
「あとあれだろ、でこに肉」
「え、先輩何それ」
「知らねえの? あー、女子だとわかんねえか」
「「………?」」
桜葉もわからず結優人と顔を見合わせる。
「漫画だよ。氷室は読んでなかったか?」
「氷室くん小難しい専門書しか読んでなかったです」
「……何かむかつくなこの野郎。そういやあれも俺が読ませたんだっけ」
ははっと笑う戒。何の漫画なんだろう。
「桜葉ちゃん漫画とか読む?」
「あ、はい。少女漫画系ですけど……」
「少年漫画でよかったら今度持ってくるよ。時間潰しにもなるし、氷室が面白いって言ってたヤツとか」
「わっ。それはありがたいですね」
「うん」
少し砕けた桜葉の言葉に、戒は少しほっとした。結優人を見ると、自分を見返してにっこり微笑んでくれた。
結優人は、自分が桜葉に優しくしても理由をわかってくれる。変な気を廻してやきもちとかしないから、そこの部分ありがたいと思う。
でも、あとでちゃんと言葉にしておこう。桜葉に優しくする理由は、氷室の一番だからだ。結優人に優しくしたいのは、愛しているからだ。根幹が全く違う。