呼びかけ、髪に触れる。

「人前で抱きついてもさ、もう怒らないから……」

じわり、目の奥が辛くなっていく。

「つか、私が抱きついてやるからね!」

桜葉はいきなり大声で宣誓した。

「ははっ。そんなことしたら氷室噴火するんじゃねえの?」

「桜葉ちゃん廊下まで聞こえてるよ……」

軽く笑い飛ばす戒と赤面気味の結優人が一緒に入って来た。

「あ……聞こえて……」

桜葉は先程の言葉が急に恥ずかしくなって小さくなった。

「氷室~、よかったな。桜葉ちゃん抱きついても怒らねえってさ」

「うあああ! 戒先輩言わないで! なし! 今のなしだから!」

『戒! 余計なこと言うな! 桜葉から言質取っ』

『何言ってんだお前は』

ボカッと後頭部をど突かれて氷室は言葉を途切らざるを得なくなった。

『いった。櫻、岬先生に言うぞ』

『勝手に言ってろ。つかお前、何しにここに来たんだよ……』

睨みつけてくる氷室に、櫻は呆れたように返す。

氷室が、己が眠る病院についたのは、手術が終わってから丸一日経った頃だった。

病室には桜葉と母がいて、ずっと自分の手を握っている桜葉は、顔は真っ蒼で隅が見えた。恐らく一睡もしていないのだろう。

さすがに氷室も、己を見る光景なんてものは初めてで――しばらく茫然と立ちつくしていた。

それから……桜葉を抱きしめた。