「俺は夏桜院の祖にあたる、ゆきって人間の娘に死にかけていたところを助けられたんだ。だけどゆきには許嫁があって……。歴史上夏桜院の祖はそいつってことになっているが、太祖にあたる『夏桜ゆきこ』は俺とゆきの娘だ。俺はまあ……何つーか、ゆきとの仲を疑われた、ゆきの夫に殺された。ゆきも、その時に……。それで、俺はそいつを殺した。あの桜の大木に貫かれた俺は、意識だけが残った。ゆきを探して、ゆきが生まれるたびに桜の古木は俺の一部をこの世に送り出した。ゆきとの間に娘があったのは、俺も前回知ったんだ。まあ前回つっても百年くらい前か? だからもう……俺が生まれ出でてくることはないと思っていたんだが、何故だかまた存在してしまってな。俺はゆきが生まれた時だけこの世にあるものだと思っていたんだが、娘がいるときもこう、桜の古木にこの世に放り出されてな。今は李を見守っているところだ」

「……そういうことなのか……。櫻、その、岬先生はその話を疑わずに聞いたのか?」

「いや? 最初は、警察呼びますよ! とか怒鳴られたけどな。でもあいつ……母親が国に帰されて独りになってから、俺を頼って……くれてるわけじゃないんだけど、話聞いてくれるようになってさ。ところどころ……憶えてるみたいだ。それで、ゆっくり受け容れてもらったよ」

「………そうか」

「そんでこの前お前らがここに来た時、氷室は俺が見えただろう? だから気をつけてって言われた。俺は人外だから、俺が見える奴ってのは人間じゃなくなっているってことだからな」

「……あの時既に俺は死期が近づいていたってことか」

「ま、そういうことだな」

櫻は飄々と答える。あの時点で……桜葉に永久を誓った瞬間には、死ぬことが決まっていた。…………哀しいな。

残酷なのは誰だ?

俺か? 神様とか言われる存在か? ……ごめんな、桜葉。

「桜葉―――……」