「櫻……? 何だいきなり」
「だって李に頼まれちまってるからな。お前を頼むって」
……岬先生。
「……櫻」
「まあ、お前が似てるからなんだけどな?」
「似てる?」
「古い時代に生まれた、俺の娘の旦那。恋人に盲目なところとか、恋人のために自分の命は顧みないところとか」
「岬先生じゃなくて?」
「その子は《以前の俺》の娘だ。俺は櫻って鬼の一部分にすぎない、娘を見守るために、俺は何度もこの世界にやってきている」
「以前の……櫻、道すがら櫻の話でもしてくれないか?」
「お前めっちゃ余裕だな」
「……余裕なんて欠片もないよ。何か……頭を動かしてないと、気が狂いそうだ。自分が死んだなんて事実、どうでもよくても簡単に受け容れられるわけないだろ……」
「……そうだよな。俺も勝手な真似したとちょっと反省している。いいさ、何でも話してやるよ」
そこで氷室は、ほっと息を吐いた。
「……ありがとう」