「ばぁーちゃーんっ!咲香(さきか)だよー」

8歳だった、私は、いつものように、縁側から勝手に網戸を開けると、運動靴をポイポイと転がして、中へ入っていく。 

「ただいまぁ」

私の真似をしながら、四つ年下の妹の美雪(みゆき)も、サンダルをポイと脱いで、後に続く。

「はいはい、いらっしゃい」 

カタカタ、クイックイッ、ダダダダダダ、と響いていたミシンの音が止んで、和室から、祖母の文子(ふみこ)が、出迎えた。

「二人とも汗だくやな、カルピス飲む?」

「うん!のどかわいた!」

「みゆも!」

私と美雪は、近所に住む父方の祖母、文子の家に、今日も遊びに来ていた。

私達の両親は、共働きだ。私は、学校が終わると、祖母の家の途中にある、保育園に美雪を迎えに行く。そのまま二人で祖母の家に行き、晩御飯を食べて、母が、仕事帰りに迎えにきてから、帰るのが日課だった。


「うすいねん」

「何でも、ちょっと薄いくらいが、身体にええねん」

ガラスコップに注がれた、ばあちゃんのカルピスは、いつも、少しだけ薄い。

私が、口を尖らす横で、妹の美雪は、ごくごくと喉を鳴らして飲むと、満面の笑みで「おかわりー」と大きな声で、ばあちゃんにせがむ。

「はい、みゆちゃん、これで終わりやで」

ガラスコップに、さっきの半分だけカルピスを注ぐと、ばあちゃんが、にっこり、笑った。

(さき)ちゃんは?もういらんの?」

「うん、いらん。そのかわり、ばあちゃんのいつものやつ見せてー」

「みゆもー」

「よっしゃ」

ばあちゃんは、トレードマークの腰巻エプロンをつけると、力瘤(ちからこぶ)を作ってみせた。