私たちが共通して好きだったバンドは、1年前、『方向性の違いにより』解散した。


重なる想いがあったから。信じたいと思えるメンバーだったから。だから一緒に音楽をしようってなったんじゃないのか。メンバー内のすれ違いごときで、私たちファンは置き去りにされてしまったのか、と。私が当時そのバンドに対して感じたのは悲しさと少しの怒りだった。

けれど今、君はその気持ちがわかるという。そして、そんな君に私が感じたのは、少しの悲しさと、納得だった。

私と君は、同じ趣味で知り合って、同じバンドが好きという共通点で仲良くなった。君と恋をしたいと思ったから、君を知りたいと思ったから、一緒に居ることを決めた。

すれ違いごときで、私たちは、お互いの本音を差し置いてさよならの危機にあるみたいだ。


ああ、そうか。このまま終わっちゃうのか、私たち。悲しいけれど、君がもう決めていることなら引き留めようがない。きっとこういうところが可愛くないのかもしれないけれど、もうどうしようもない。私は、今まで何度もこうして自分の気持ちを伝えることを諦めてきたから。


「あのさ、別れ話ならもっとわかりやすく」
「別れ話なんかしてねーわ。俺とお前のこれからの話をしてんだよ」
「え?」


半ばあきらめて不貞腐れたような声で言った私にかけられたのは、思っていたのとは全く真逆のもので、ぱちぱちと瞬きをして君を見つめると、「その顔間抜けだぞ」と軽く笑われた。



「なん……、え、違うの?」
「なに、お前は俺と別れたいの」
「そっ、そうじゃないけど…」


そうじゃない。そうじゃないけど、絶対今から振られると思っていたから意外だったのだ。

君はもう私の愛想をつかして、私と一緒に居るのが疲れてしまったのだと、そう思っていたから。



「バンドが解散するのってさ、すれ違うたびにグループで話し合って、解決策を見つけて、だけどそれでもダメで、グッドミュージックを届けられないって本人たちが思ったときだと思うんだよ」
「……そうなのかな」
「わかんねーけど、俺はそう思う。そんでさ、俺とお前って別にファンがいるわけでもないし、これって1対1の問題じゃん。解決策なんていくらでもあるし、すれ違うたびに俺たちはお互いのことまだまだ全然知れてなかったんだなって反省してくんだ」




――お前の白いとこも黒いとこも全部分かってたいって思う

――お前もさ、俺のこと簡単に諦めんなよ



ああ、そうか。
君の言葉で気づいてしまった。



「なんで泣くんだよ」
「…あれ、ほんとだ」


私は君のことを諦めようとしていた。本音を殺して、傷つかないための最善策に縋ろうとしていた。

涙が出るのは、君のことが好きだから。
本当はまだもっと、君を知っていたいから。


「俺のこと簡単に諦めんなよ。俺も、お前のこと諦める気ないし」
「うん……」
「方向性が違くたって、お前となら大丈夫だって、俺はずっと思ってる」
「…うん」
「泣いた顔も可愛いとか、俺あんま知らなかったわ」
「…バカだ。やめてよ今そういうこというの、泣いちゃうから」
「くはは。もう泣いてんじゃんって」



私と君。解散する時が来るとしたら、きっとどちらかの未来が途絶えた時だけのような気がした。