前回のあらすじ
総集編には早すぎるんじゃなかろうか。
「どうも、この異世界に飛ばされてきたのは私だけじゃないみたいなんだよね」
より厳密に言うと、私だけじゃなかったというべきかな。
最初に違和感を覚えたのは、ここが自分の住んでいた世界ではないのではないかと考えさせられた森の中でのこと。
角猪や鹿雉、螺旋花や玻璃蜆、そういったどう考えてもここが元の世界ではないと断言できる不思議生物たち――ではなく、それ以外の見覚えのある生き物たちにこそ私は首をかしげたのだった。
私は完全記憶能力を持っている、というのは言ったと思うが、具体的にこれがどういうものかと言えば、図鑑を読めばその内容はすべて覚えているし、子供のころ遠足で歩いた道端の草や花の一つ一つまで覚えているということである。
何なら私はタンポポの花弁がいくつあるか、それぞれの個体ごとに記憶を参照して数えることだってできる。いや、そんな面倒なことはしないけどさ。
何が言いたいかと言えば、そんな私の記憶の中にある植物が、つまり元の世界で確かに存在していた植物たちがこの世界にも存在しているということそれ自体が私に違和感を覚えさせたのである。
もちろんそれらは完璧に同じというわけでは無かった。シダや針葉樹林、キノコやつる草、それらはこの世界の自然環境に適応していた。
しかしそれでも松葉独活はどう見ても白アスパラだったし、葶藶はクレソンだった。林檎は品種改良が途上であるか、または途中で別の方向に舵を切ったリンゴそのものだった。
それに極めつけは、人間だ。
リリオに遭遇した瞬間、私は幸運に感謝する以上に困惑した。
どうしてこの人間はここまで人間なのか、と。
収斂進化という言葉がある。
例えばモグラとケラの手の形が、同じく土を掘るという目的に適応した結果似たような形に進化したり、イルカと鮫が哺乳類と魚類という違いがありながら似たようなシルエットに落ち着いたり、つまりは環境に適応した結果、違う種の生き物であっても似たような形に落ち着くという進化の一つの形だ。
私は異世界にあってそれを想定していた。例えば肌の色が違う、指の数が違う、つまりゴブリンやオーク程度のことは誤差の範囲内だと。
それが実際に遭遇した相手は何だっただろうか。どんぴしゃりの人間そのものだ。
その後の観察でも、体を洗ってやる際の触診でも、私はリリオが人間そのものの構造であることを確認している。
もっと元の世界とそっくりな世界であれば、並行世界の一つとして考えることもできた。しかしこの世界はあまりにも元の世界とかけ離れている。生態系も、物理と言っていいのかわからないが精霊や魔法、神霊をはじめとする法則も、隣人種というかけ離れた生き物たちも、何もかも。
それなのに人間という種族は人間という種族のままだし、見知った植物や動物たちが平然と存在する。
ヴォーストの街に辿り着いて、その造りを眺めて、私の疑問はより大きくなった。
他種族が共存し、様々に異なる要素がある世界にしては、この世界の文明圏はあまりにも中世欧州に近いのではないか、と。
あまりにも都合の良すぎる作りに対する仮説は、こうだった。
私がこの世界に飛ばされてきたように、人類や動植物もまた、この世界に飛ばされてきたのではないか、と。そして、何者かの手によって剪定されているのではないかと。
この仮説は、この世界の神話とも噛み合った。
風呂の神官バーノバーノが語り、そして私があとから書籍で確かめた神話にはこうある。
この世界はもともと、永遠の海と浅瀬があるだけの、国津神たちが治める山椒魚人と海棲生物だけの世界だった。
そんな中、ある日、天津神たちが虚空天を旅してやってきて、ここに住まわせてほしいと頼みこんだ。国津神たちは穏やかなばかりの日々に飽いていて、賑やかになることを喜んでこれを受け入れた。
はじめに境界の神プルプラが、天津神たちを招くため虚空天に橋を架けた。
プルプラに招かれて最初に橋を渡ってきたのは、火の神ヴィトラアルトゥロ。しかしヴィトラアルトゥロにとって海の世界は寒すぎた。この神は深き海の底、海底の更に下、太古の火の傍に潜り込んで暖をとった。巨大な神が潜り込んだ分、海底は大きく持ち上がって海の上に陸ができた。
次にやってきたのは山の神ウヌオクルロだった。この神は盛り上がった陸地の数々を整え、繋げ、大陸と島々を作り、積み上げた山々の一つに腰を落ち着けた。またこの神が拵えた火山がひとつ、寒がりなヴィトラアルトゥロに与えられた。
その次にやってきたのは森の神クレスカンタ・フンゴ。この神は海の上に生まれた陸地に身を沈め、種をまき、森を生んだ。この神と森たちが大きく息を吐くと、世界に濃い大気と木々が満ちた。今でも巨大な森の下にはこの神の四肢が埋まっているという。
仕上がった世界に、獣の神アハウ=アハウが獣たちを放ち、こうしてこの世に多種多様な生き物たちが満ち溢れるようになった。
その後に風の神エテルナユヌーロが眷属を引き連れて舞い降り、気の向くままに旅をした。いまもこの神は空を巡り続け、どこにあるとも知れない。
文明の神ケッタコッタは人族を率いて文明を築いたが、そのもたらす火が多くを焼いたため、従僕である人族の多くはそのひざ元を離れ、いまは極北で僅かな従僕の守りのもと、永き眠りについている。
こうして天津神たちが来たり降り、各々の従僕を地に放ち、増やし、満たした。
神話によればこの従僕というのが人間を始めとした隣人種達の祖先であるという。
つまり、ほとんど全ての隣人種は、この世界で順当に進化してきた生き物ではなく、他所の世界から連れてこられたのだという。仮に虚空天というものを宇宙と訳すのならば、他の星系から連れてこられた生き物たちだともいえるだろう。
そう、この世界に連れてこられたのは私が最初ではないのだ。この世界の黎明の頃に大規模な移殖があり、そして恐らくは、文化や、品々、そう言ったこまごまとした形でいまもその移殖は続いているのだ。
そして決定的に私にこの世界と元の世界とのつながりを感じさせたのは、この世界の言葉だった。
自動翻訳で提供される言葉ではない。この世界の人々が使っている言葉であり、文字だ。
私がいとも簡単にこの世界の文字を覚えられた理由は、単に記憶能力のためではない。
この世界の文字に馴染みがあったからだ。
かつて種族ごとに違う言葉を用いていたこの世界は、文明の神ケッタコッタの専横を打倒するために、それまでいがみ合っていた隣人種達を一つにつなげる必要があった。
そしてその際に、神話によれば一柱の神が立ち上がり、ひとつなぎの言葉である交易共通語を与えたとされる。
三十二文字から成るアルファベットによって組み上げられる交易共通語を与えた神の名は、こう伝えられている。
言葉の神エスペラントと。
それは一八八〇年代に考案された、人工言語である。
用語解説
・境界の神プルプラ
顔のない神。千の姿を持つもの。神々の主犯。八百万の愉快犯。
非常に多芸な神で、また面白きを何よりも優先するという気質から、神話ではトリックスターのような役割を負うことが多い。何かあったら裏にプルプラがいることにしてしまえというくらい、神話に名前が登場する。
縁結びの神としても崇められる他、他種族を結び付けた言葉の神はプルプラが姿を変えたものであるなど他の神々とのつながりが議論されることもある。
過酷な環境と敵対的な魔獣などのために死亡率が高い辺境では、性別に関係なく子孫を残せるよう、プルプラの力で同性同士での子作りや男性の出産などが良く行われている。
・火の神ヴィトラアルトゥロ
ガラスの巨人。灼熱の国より降り来たった神。プルプラに騙された犠牲者その一。
遊びに誘われてやってきたら、彼からしたら極寒の惑星だった上、マントルに放り込まれて強制的にテラフォーミングに従事させられた。現在も寒すぎるので、ウヌオクルロが用意してくれた火山に引きこもっている。
鉱石生命種囀石の祖神。
火の神である他、宝石や鉱石など、土中に算出する鉱物類の神ともされる。
・山の神ウヌオクルロ
プルプラの犠牲者その二。
遊びに誘われてやってきたらベータ版以前の状態で、マップ製作からやらされる羽目になった苦労人。
拗ねたヴィトラアルトゥロを何とか地表近くまで掘り起こして、引きこもれる家を用意してあげた。
土蜘蛛の祖神。また蟲獣達を連れてきたとされる。
しばらく働く気はないようで、山々のどれかに腰を落ち着けているという。
・森の神クレスカンタ・フンゴ
犠牲者その三だが、本神はまるで気にしていない。
好き勝手やっていいという契約で、ウヌオクルロが耕した大地に降り来たり、植物相を広げてテラフォーミングをおおむね完成させた。
不定形の虹色に蠢く粘菌とされ、人の踏み入れることのできない大樹海の奥地で眠りこけているという。
森に住まう隣人種湿埃の祖神。
・獣の神アハウ=アハウ(Ahau=ahau)
土台の整った世界に動物たちを放ち、生態系を埋めていった。
セルゲームをやっているような気持ちでこの世界を観察しており、個体個体にはあまり興味がない。
ケッタコッタを裏切り祖神を失った人族たちを庇護下に置いたのも、西大陸を自分専用の観察場とするため。
極小の眼球で構成された灰色のガス状生命体とされ、その本体は地に広く広がっているという。
獣人の祖神。
・風の神エテルナユヌーロ
大体仕上がった頃にやってきた神。翼の生えた若者の姿をしているとも、金色の風そのものであるともされる。
非常に気ままで気まぐれで我が道を行くタイプで、空気が読めない。厄介ごとは大抵こいつが持ってくるか、拡大させるか。
面白いことを優先するという気質はプルプラと同様であるが、尻拭いは一切しない。
それでも疎まれないのは自分一人ではなくみんなで楽しもうという憎めないスタンスのおかげか。ただし相手の都合は考えない。
天狗の祖神であり、羽獣たちを連れてきたとされる。
・文明の神ケッタコッタ
無数に分岐する体毛を全身に生やした、捻じれ狂った長大な筒のような姿をしているとされる。
テラフォーミングを終えた後の世界の内、他の神から人気のなかったただの平地に腰を下ろし、従属種である人族を住まわせた。
庇護する人族に文明を与え、善く導き、その勢力を拡大させた、というと善き神のように聞こえるが、その実態はいわば和マンチ。
他の神々との盟約に反しない範囲で肩入れしまくって支配圏を広げ、ついにほかの神々の怒りを買い、それまで各神各種族毎に勢力を広げていた形を、人族VS他種族の構図に持ち込まれた。
この戦争の際に、今まで割を食っていた被差別層の人族も離脱し、あちこちガタが来たところを連合軍にぼろくそにされた。
敗北の代償として人族に注いだ有り余る加護を他の神々に簒奪され、その影響で現代の隣人種はみな人族と似通っているという。
戦争後は極北の地にふて寝しており、追従者である僅かな人族たちが聖王国としてその寝床を守っている。
・言葉の神エスペラント
人族の被差別層から立ち上がった人神であるとも、境界の神プルプラの権現のひとつであるともされる。
それまで違う言葉、違う文化をもって相争っていた隣人種達に共通の言葉を与え、争うだけでなく分かり合う道を与えたとされる。
・エスペラント語
一八八七年にユダヤ系ポーランド人ルドヴィコ・ラザーロ・ザメンホフとその協力者が国際語として考案・整備した人工言語、つまり自然発生的に生まれた言語ではなく、言語として作られた言語。
「エスペラント」とはこの人工言語で「希望する人」を意味する。
言葉の神エスペラントが登場した時代はこの言語の発明よりももっと以前のはずなのだが、どちらが先なのかは不明である。
総集編には早すぎるんじゃなかろうか。
「どうも、この異世界に飛ばされてきたのは私だけじゃないみたいなんだよね」
より厳密に言うと、私だけじゃなかったというべきかな。
最初に違和感を覚えたのは、ここが自分の住んでいた世界ではないのではないかと考えさせられた森の中でのこと。
角猪や鹿雉、螺旋花や玻璃蜆、そういったどう考えてもここが元の世界ではないと断言できる不思議生物たち――ではなく、それ以外の見覚えのある生き物たちにこそ私は首をかしげたのだった。
私は完全記憶能力を持っている、というのは言ったと思うが、具体的にこれがどういうものかと言えば、図鑑を読めばその内容はすべて覚えているし、子供のころ遠足で歩いた道端の草や花の一つ一つまで覚えているということである。
何なら私はタンポポの花弁がいくつあるか、それぞれの個体ごとに記憶を参照して数えることだってできる。いや、そんな面倒なことはしないけどさ。
何が言いたいかと言えば、そんな私の記憶の中にある植物が、つまり元の世界で確かに存在していた植物たちがこの世界にも存在しているということそれ自体が私に違和感を覚えさせたのである。
もちろんそれらは完璧に同じというわけでは無かった。シダや針葉樹林、キノコやつる草、それらはこの世界の自然環境に適応していた。
しかしそれでも松葉独活はどう見ても白アスパラだったし、葶藶はクレソンだった。林檎は品種改良が途上であるか、または途中で別の方向に舵を切ったリンゴそのものだった。
それに極めつけは、人間だ。
リリオに遭遇した瞬間、私は幸運に感謝する以上に困惑した。
どうしてこの人間はここまで人間なのか、と。
収斂進化という言葉がある。
例えばモグラとケラの手の形が、同じく土を掘るという目的に適応した結果似たような形に進化したり、イルカと鮫が哺乳類と魚類という違いがありながら似たようなシルエットに落ち着いたり、つまりは環境に適応した結果、違う種の生き物であっても似たような形に落ち着くという進化の一つの形だ。
私は異世界にあってそれを想定していた。例えば肌の色が違う、指の数が違う、つまりゴブリンやオーク程度のことは誤差の範囲内だと。
それが実際に遭遇した相手は何だっただろうか。どんぴしゃりの人間そのものだ。
その後の観察でも、体を洗ってやる際の触診でも、私はリリオが人間そのものの構造であることを確認している。
もっと元の世界とそっくりな世界であれば、並行世界の一つとして考えることもできた。しかしこの世界はあまりにも元の世界とかけ離れている。生態系も、物理と言っていいのかわからないが精霊や魔法、神霊をはじめとする法則も、隣人種というかけ離れた生き物たちも、何もかも。
それなのに人間という種族は人間という種族のままだし、見知った植物や動物たちが平然と存在する。
ヴォーストの街に辿り着いて、その造りを眺めて、私の疑問はより大きくなった。
他種族が共存し、様々に異なる要素がある世界にしては、この世界の文明圏はあまりにも中世欧州に近いのではないか、と。
あまりにも都合の良すぎる作りに対する仮説は、こうだった。
私がこの世界に飛ばされてきたように、人類や動植物もまた、この世界に飛ばされてきたのではないか、と。そして、何者かの手によって剪定されているのではないかと。
この仮説は、この世界の神話とも噛み合った。
風呂の神官バーノバーノが語り、そして私があとから書籍で確かめた神話にはこうある。
この世界はもともと、永遠の海と浅瀬があるだけの、国津神たちが治める山椒魚人と海棲生物だけの世界だった。
そんな中、ある日、天津神たちが虚空天を旅してやってきて、ここに住まわせてほしいと頼みこんだ。国津神たちは穏やかなばかりの日々に飽いていて、賑やかになることを喜んでこれを受け入れた。
はじめに境界の神プルプラが、天津神たちを招くため虚空天に橋を架けた。
プルプラに招かれて最初に橋を渡ってきたのは、火の神ヴィトラアルトゥロ。しかしヴィトラアルトゥロにとって海の世界は寒すぎた。この神は深き海の底、海底の更に下、太古の火の傍に潜り込んで暖をとった。巨大な神が潜り込んだ分、海底は大きく持ち上がって海の上に陸ができた。
次にやってきたのは山の神ウヌオクルロだった。この神は盛り上がった陸地の数々を整え、繋げ、大陸と島々を作り、積み上げた山々の一つに腰を落ち着けた。またこの神が拵えた火山がひとつ、寒がりなヴィトラアルトゥロに与えられた。
その次にやってきたのは森の神クレスカンタ・フンゴ。この神は海の上に生まれた陸地に身を沈め、種をまき、森を生んだ。この神と森たちが大きく息を吐くと、世界に濃い大気と木々が満ちた。今でも巨大な森の下にはこの神の四肢が埋まっているという。
仕上がった世界に、獣の神アハウ=アハウが獣たちを放ち、こうしてこの世に多種多様な生き物たちが満ち溢れるようになった。
その後に風の神エテルナユヌーロが眷属を引き連れて舞い降り、気の向くままに旅をした。いまもこの神は空を巡り続け、どこにあるとも知れない。
文明の神ケッタコッタは人族を率いて文明を築いたが、そのもたらす火が多くを焼いたため、従僕である人族の多くはそのひざ元を離れ、いまは極北で僅かな従僕の守りのもと、永き眠りについている。
こうして天津神たちが来たり降り、各々の従僕を地に放ち、増やし、満たした。
神話によればこの従僕というのが人間を始めとした隣人種達の祖先であるという。
つまり、ほとんど全ての隣人種は、この世界で順当に進化してきた生き物ではなく、他所の世界から連れてこられたのだという。仮に虚空天というものを宇宙と訳すのならば、他の星系から連れてこられた生き物たちだともいえるだろう。
そう、この世界に連れてこられたのは私が最初ではないのだ。この世界の黎明の頃に大規模な移殖があり、そして恐らくは、文化や、品々、そう言ったこまごまとした形でいまもその移殖は続いているのだ。
そして決定的に私にこの世界と元の世界とのつながりを感じさせたのは、この世界の言葉だった。
自動翻訳で提供される言葉ではない。この世界の人々が使っている言葉であり、文字だ。
私がいとも簡単にこの世界の文字を覚えられた理由は、単に記憶能力のためではない。
この世界の文字に馴染みがあったからだ。
かつて種族ごとに違う言葉を用いていたこの世界は、文明の神ケッタコッタの専横を打倒するために、それまでいがみ合っていた隣人種達を一つにつなげる必要があった。
そしてその際に、神話によれば一柱の神が立ち上がり、ひとつなぎの言葉である交易共通語を与えたとされる。
三十二文字から成るアルファベットによって組み上げられる交易共通語を与えた神の名は、こう伝えられている。
言葉の神エスペラントと。
それは一八八〇年代に考案された、人工言語である。
用語解説
・境界の神プルプラ
顔のない神。千の姿を持つもの。神々の主犯。八百万の愉快犯。
非常に多芸な神で、また面白きを何よりも優先するという気質から、神話ではトリックスターのような役割を負うことが多い。何かあったら裏にプルプラがいることにしてしまえというくらい、神話に名前が登場する。
縁結びの神としても崇められる他、他種族を結び付けた言葉の神はプルプラが姿を変えたものであるなど他の神々とのつながりが議論されることもある。
過酷な環境と敵対的な魔獣などのために死亡率が高い辺境では、性別に関係なく子孫を残せるよう、プルプラの力で同性同士での子作りや男性の出産などが良く行われている。
・火の神ヴィトラアルトゥロ
ガラスの巨人。灼熱の国より降り来たった神。プルプラに騙された犠牲者その一。
遊びに誘われてやってきたら、彼からしたら極寒の惑星だった上、マントルに放り込まれて強制的にテラフォーミングに従事させられた。現在も寒すぎるので、ウヌオクルロが用意してくれた火山に引きこもっている。
鉱石生命種囀石の祖神。
火の神である他、宝石や鉱石など、土中に算出する鉱物類の神ともされる。
・山の神ウヌオクルロ
プルプラの犠牲者その二。
遊びに誘われてやってきたらベータ版以前の状態で、マップ製作からやらされる羽目になった苦労人。
拗ねたヴィトラアルトゥロを何とか地表近くまで掘り起こして、引きこもれる家を用意してあげた。
土蜘蛛の祖神。また蟲獣達を連れてきたとされる。
しばらく働く気はないようで、山々のどれかに腰を落ち着けているという。
・森の神クレスカンタ・フンゴ
犠牲者その三だが、本神はまるで気にしていない。
好き勝手やっていいという契約で、ウヌオクルロが耕した大地に降り来たり、植物相を広げてテラフォーミングをおおむね完成させた。
不定形の虹色に蠢く粘菌とされ、人の踏み入れることのできない大樹海の奥地で眠りこけているという。
森に住まう隣人種湿埃の祖神。
・獣の神アハウ=アハウ(Ahau=ahau)
土台の整った世界に動物たちを放ち、生態系を埋めていった。
セルゲームをやっているような気持ちでこの世界を観察しており、個体個体にはあまり興味がない。
ケッタコッタを裏切り祖神を失った人族たちを庇護下に置いたのも、西大陸を自分専用の観察場とするため。
極小の眼球で構成された灰色のガス状生命体とされ、その本体は地に広く広がっているという。
獣人の祖神。
・風の神エテルナユヌーロ
大体仕上がった頃にやってきた神。翼の生えた若者の姿をしているとも、金色の風そのものであるともされる。
非常に気ままで気まぐれで我が道を行くタイプで、空気が読めない。厄介ごとは大抵こいつが持ってくるか、拡大させるか。
面白いことを優先するという気質はプルプラと同様であるが、尻拭いは一切しない。
それでも疎まれないのは自分一人ではなくみんなで楽しもうという憎めないスタンスのおかげか。ただし相手の都合は考えない。
天狗の祖神であり、羽獣たちを連れてきたとされる。
・文明の神ケッタコッタ
無数に分岐する体毛を全身に生やした、捻じれ狂った長大な筒のような姿をしているとされる。
テラフォーミングを終えた後の世界の内、他の神から人気のなかったただの平地に腰を下ろし、従属種である人族を住まわせた。
庇護する人族に文明を与え、善く導き、その勢力を拡大させた、というと善き神のように聞こえるが、その実態はいわば和マンチ。
他の神々との盟約に反しない範囲で肩入れしまくって支配圏を広げ、ついにほかの神々の怒りを買い、それまで各神各種族毎に勢力を広げていた形を、人族VS他種族の構図に持ち込まれた。
この戦争の際に、今まで割を食っていた被差別層の人族も離脱し、あちこちガタが来たところを連合軍にぼろくそにされた。
敗北の代償として人族に注いだ有り余る加護を他の神々に簒奪され、その影響で現代の隣人種はみな人族と似通っているという。
戦争後は極北の地にふて寝しており、追従者である僅かな人族たちが聖王国としてその寝床を守っている。
・言葉の神エスペラント
人族の被差別層から立ち上がった人神であるとも、境界の神プルプラの権現のひとつであるともされる。
それまで違う言葉、違う文化をもって相争っていた隣人種達に共通の言葉を与え、争うだけでなく分かり合う道を与えたとされる。
・エスペラント語
一八八七年にユダヤ系ポーランド人ルドヴィコ・ラザーロ・ザメンホフとその協力者が国際語として考案・整備した人工言語、つまり自然発生的に生まれた言語ではなく、言語として作られた言語。
「エスペラント」とはこの人工言語で「希望する人」を意味する。
言葉の神エスペラントが登場した時代はこの言語の発明よりももっと以前のはずなのだが、どちらが先なのかは不明である。