主従関係であり、必要以上の提言が許されない身である旭日は一度も口にしたことはなかったが――二年前、初めて見たときから思っていた。私がこの子を護りたい、と。
小さな少女。白い肌は、雪のように淡く消えそうだった。
……そんな主が、何故だかとても、大事な子のように思えた。ずっとずっと、大事にしてきた子のように思えた。
その彼女が今、嬉しそうな、恥ずかしそうな顔をしている。親のような気持ち……とはちょっと違うかもしれない。ただただ、護りたかった小さな女の子が蝶の羽化のように女性になっていくのが嬉しかった。
旭日は湖雪の制服の支度をしながら、微笑む。
当の湖雪の頭の中は、旭日の思ったとおり、婚約者の惣一郎でいっぱいだった。
初めて心にあふれる感情に戸惑っていた。不安? 安心? 恐怖? 期待? いろいろなものがごちゃ混ぜだった。
彼が……夏桜院の婿養子になるのは、何か裏のような理由があるのはわかっていた。
名前に含まれる、長子である可能性。名前の《一》の漢字。虹琳寺のような旧家なら、なおさら名前には意味を持たせてつける。虹琳寺は嫡子継承性と聞く。今の当主は、それを覆すような排他的でも革新的な人格ではない。それなのに跡継ぎにはなれなかった。……邪推してしまうが、惣一郎も妾腹なのだろうか……。妾腹の娘と蔑まれた自分と……本当に一緒になって、彼はいいのだろうか。
不安が勝る。
湖雪はまた、小さく頭を振った。
それならば、お互い余計な詮索はなしだ。
自分は夏桜院の血を継いだ子を生む。それだけだ。恋愛感情などはいらない――。