電車の駅まで、一緒に歩いた。

別れ際、彼女は申し訳なさげに呟いた。

「忘れてくれない? 愚痴ちゃったこと」

「いいよ。でも、何で?」

「湿っぽい奴だって、覚えてほしくないから」

俺を見上げる瞳が微かに滲んでいた。

「辛い時は我慢しないで、愚痴くらい言ってもいいんじゃないか? 俺だって姉ちゃんに度々、愚痴ってるんだぜ」

彼女は丸く目を見開いて、そうなの? と言いたげに、俺を見ている。

「小鳥遊、俺で良ければ聞いてやるよ。たがらさ、1人で抱えこむなよ」

俺は言いながら、彼女の頭をポンポンと撫でた。

「……ありがとう。仁科くんは優しいね」

俺はこの日、2度目の「優しいね」に胸の奥がくすぐったかった。

家に着いて、炊事をしていると玄関から姉が「はぁ~」とため息をつく声が聞こえてきた。

「今日の夕飯、なに?」