「すみません。閉館の時間ですけど、どれか借りていかれますか?」

図書室カウンターに居た図書委員が、俺に話しかけた。

机の上を派手に散らかし、本の裏表紙を開いた俺を怪訝そうな顔でみつめていた。

「あ……と、悪い。ちょっと調べものをしていて。これ、借りていく」

俺は言いながら「流浪の月」を差し出した。

「散らかして……ごめん」

並べた本を閉じ、本棚に戻そうと抱えたが、「片づけておきますよ」と言われ、「申し訳ない」と頭を下げた。

小鳥遊が読んでいた本も、今の今まで気にも止めずにいたことが、ただ可笑しかった。

図書室を出て、話してみようかなとスマホを取り出した。

小鳥遊は目を細めクスッと笑って「今頃?」と返信してくるんだろうなと、様子を思い浮かべた。

「鈍いんだか、暢気なんだか……」

彼女はメールではなく、電話をかけてきた。