小鳥遊を抱き寄せた時、胸が当たらなかったことを思い出した。

ーー10年間も薬を飲み続けなきゃならないんだって。体に消えない傷までできて……いつまた

頭の中で、小鳥遊の言葉がリフレインした。

ハッとすると同時にある病名が思い浮かび、身震いした。

いや、まさか、違う違うと否定するけれど、その病名が俺の頭の中から消えなかった。

考えないようにと思うのに、彼女の顔が浮かんでは消え消えては浮かんだ。

シャワー音が止んだのに気づかなかったのは迂闊だった。

姉がタオルで髪を拭きながら、冷蔵庫を開けていた。

「ビール、ビールと」

俺はコンロを止めて、揚げ出し豆腐とブリ大根を器によそい、テーブルに置いた。

「蒼司がボーとしているなんて」

姉がビールのプルタブを引きながら言った。