紗世は結城が隠し事をせず、何でも話せる存在になりたいと思う。

結城の笑った顔、喜ぶ顔がみたいと。

「麻生くん、『万萬詩悠』の印象はどう?」

渡部に聞かれ、紗世はどうこたえていいのか戸惑う。

「驚いただろう?」

「はい。編集長、彼は耳も聞こえないんですか?」

「詳しくは知らないけれど、『聞こえ』は問題ないんじゃないかな。万萬くんは、生まれつき発声器官と声帯に障害があって喋れないらしいんだ」

「色々と不便でしょうね」

「そうだな。実は障害が理由で、なかなか作品を採用されないんだ。交渉や意志疎通が難しいし、連絡事項がうまく伝わらなくてね」

「そんな……」

「それに彼が詳しい経歴を明かしていないからね」

「わたし、彼の『限りなくグレーに近い空』すごく好きなんです」

「預かった作品、読んでみるかい!?」

「いいんですか?」