紗世は、爽やかに香ったグリーンノートの匂いを思い浮かべ「結城さん」ふと、呟く。


編集部に戻った紗世に黒田が、珍しく珈琲を差し出し「どうかしたの?」と訊ねる。


紗世は正直に話してみる。

「そうね。万萬詩悠の醸し出す空気は、少し由樹に似ているわね」

黒田は言いながら、目を細める。

「由樹はあれでも、ずいぶん明るくなったのよ」

黒田が呟くように言った顔は、母親が子を思うような暖かさに似ている。

――結城のことになると黒田は見境がなくなる


相田の言葉が紗世の胸に突き刺さる。

――由樹は無理しちゃいけない体なんだ

相田の言葉を思い出すたび、紗世は自分が結城の重荷になっていないかと不安になる。

結城が出かける時に、いつも鞄に入れる、結城の年には似つかわしくない様々な物たち。