万萬は机に並べた原稿を纏めて、鞄に入れようとする。

「万萬くん、その原稿読ませてもらっていいかい?」

――別に構いませんが、仕上がりに満足してる作品ではないので、読んで頂けるのでしたら批評をいただきたいです

「わかった」

万萬は静かに立ち上がり、深々と一礼する。

「ありがとうございました」が聞こえてきそうな、綺麗な姿勢で。

紗世は万萬をエレベーターまで案内し、ドアが閉まるまで見送った。

筆談などの文字や手話が、伝達方法だというのは、どれほど大変なんだろうと思う。

――自分の気持ちや感情も、一々文字に置き換えて伝えるんだろうか?

紗世は自分には到底、できないと思う。

万萬が「限りなくグレーに近い空」を自殺した知人のために書いたと、見せた文字が、何故か紗世に結城の顔を思い出させる。