長い手足、薄茶色の髪、色白で何処か儚げな万萬からは、爽やかなグリーンノートの香りがする。


――あっ、この香り


紗世が初めて、結城に会った時に感じた香りだ。


ハッとし、万萬を見上げる。


エレベーターのベルが鳴る。


誰も乗っていないエレベーター。

紗世は万萬と2人乗り込み、「フフっ」と思い出したように笑った。

万萬はそんな紗世をただ、じっと見つめる。

「『限りなくグレーに近い空』あれって、泣いてる空の色だなって感じたの」

紗世は万萬の真っ直ぐな視線を感じて、ポツリ言ってみる。

――限りなく……は自殺した知人のために書きました

紗世はメモに書かれた青い色の文字が何故か悲しく感じられ、万萬の隠れた目元を見つめる。

――限りなく……で泣いているのは空ではなく、僕なんです

万萬はそう書いたメモを紗世に向け、薄く微笑む。