結城は15時過ぎ。
紗世に霜田の原稿再チェックを命じ、1人出かけて行った。

「紗世ちゃん。結城、『桜居かほり』先生の所に行って直帰するって、伝言」

編集長『渡部』の後ろの壁にかかった時計の針は、6時過ぎを指している。

「相田さん、ありがとうございます」

相田は沢山江梨子の我が儘に、度々振り回されているため、紗世はあまり顔を合わさない。

「珍しいですね、相田さんがこの時間にいらっしゃるなんて」

「沢山先生の原稿が今回は早く出来上がったんでね」

「そうなんですか。結城さんは何で桜居先生のお宅には、いつも1人で行くのかしら」

「桜居先生は神経質な人らしいからね」

「わたし、まだ1度も同行させてもらってないんです」

紗世は頬をぷくり膨らませる。

「あの先生は書き出したら速筆だから、結城に任せておけばいい」