「姉貴は過保護なんだ。人の部屋の合鍵、勝手に作って押し掛けた挙げ句、心配だからって同居し始めたんだ」

結城は迷惑そうにしながら、穏やかな優しい顔をしている。


「いいお姉さんじゃないですか?」

「そう ……か。『由樹の顔は色白で黄金比率だから、メイクの実験台に申し分ないの。
それに由樹は度々、顔色がすごく悪くなるから、薄化粧くらいしなきゃダメ』なんて、人の顔を弄ぶんだ」

結城は不貞腐れたように言う。

「だから結城さん、メイクが上手だったんですね」

紗世はクスッと笑う。

「野郎の鞄に化粧道具、勝手に入れて新作入れ替えまでするんだ。化粧するのが前提みたいに」

「でも、持ち歩いてるんですよねっ」

紗世が笑いを堪えて言うと「笑うな」結城の頬が仄かに紅く染まる。

「噂なんか信じるな。俺を信じろ」

黙って深く頷く紗世。

「返事は?」


「はい!」

紗世はフフっと笑った。


霜田奈利子の所から、午後1時過ぎに帰社した結城と紗世。