それに年齢も経歴も、本人が頑なに語ろうとしない。

――あんな謎だらけの作家名を出しても、さほど驚きもしない

渡部は「万萬詩悠」呟いて、ゆっくりと珈琲を啜る。

「編集長、沢山江梨子『空を詠む』もらってきました」

結城と入れ替わりに、勢いよく入ってきた相田匡輝。

「お疲れ様。今回も難産だったようだな」

「沢山先生、筆が遅くなりましたね。以前は締切ギリギリなんてなかったんですが」

「そうだな、読者もだいぶん減ってるようだ」

渡部は渋い顔をする。

「作品も終盤ですし連載が終わったら、次どうします?」

「相田、それなんだが……ちょっと」

渡部は相田を手招きし呼び寄せると、相田の耳元で策を囁く。

「!! マジですか? …… 筆力は認めますが、大丈夫なんですか?」

「まあ、賭けみたいなものだな」

「賭けみたいなって …… そんな無責任な」