「病院へは、ちゃんと行けてるのか? 芽衣沙と相田が心配していたぞ」

「あ……大丈夫です」

「ん、無理はするなよ」

「はい」

「それと『万萬詩悠(よろずしゆう)』いつでも、使えるように押さえといて」

「『万萬詩悠』をですか……」

「ぼちぼち、或る人の見切りを考えないと、ヤバそうなんでね」

「そうですか、了解です。霜田先生の所、行ってきます」

渡部は編集部室を出ていく結城を目で追う。

――ったく、「見切り」という単語だけで了解って、何処まで先を読んでるんだ

渡部は顔をしかめ、一息深く溜め息をつく。

――万萬詩悠……。

いつも帽子を目深に被り、前髪と眼鏡で顔を隠し、その顔をまともに見せたことがない。

万萬は生まれつき聴唖で、聞くことはできるが発音ができない。

会話は筆談か手話という。