紗世の手が止まる。

「社長秘書の?」

「…… 聞いたのか」

「昨日、同期で総務部の愛里が」

「…… 盲点だったな」

結城は溜め息混じりにポツリ。

卓上の時計をちらと見る。

「麻生 …… 楽になった」

体を起こし、椅子にかけた鞄を開け、ジッパー付きの袋を取り出す。

「麻生、ちょっと」

結城は紗世の顔をクィと自分の方に向け、「掛けて」と呟く。

「…… 腫れた瞼で行けば、有らぬ噂が立つ」

「結城さん」

「俺は …… 何を言われてもいい。でも麻生には嫌な思いはさせたくない」

結城は言いながら、袋から意外なものを取り出し、紗世の目の下にブラシをかける。

「えっ!? 何でお化粧道具なんて持ってるんですか?」

「さあな~、教えない」

結城は紗世の涙袋にコンシーラーを塗る。

続けてCCクリームを薄くはたくように乗せていく。