「あいつ、ヴァイオリンも弾けるのか?」

「ヴァイオリンもっ……他にも何か?」

「いや……桜居かほりが『不眠症だって言ったら、結城がバーテンダーばりにカクテルを作って飲ませてくれて、よく眠れた』って 」

「……あいつ。色仕掛けして作家先生と宜しくベッドを共にとかもしてるって噂だぞ」

結城は何も言わず、静かに聞いていた。

紗世が「酷い」と漏らし怒りを露にした時は、そっと手を握り「言わせておけ」と制止し、平然としていた。

「紗世、待った?」

紗世が、珈琲だけ注文し待っていると、愛里が息を弾ませ席に着いた。

「ご飯食べようよ。お腹すいちゃって」

愛里が上着を脱ぎ、畳みながら言う。

「どう? 編集部っていうか~、結城くんはどうなの?」

愛里はハイテンションだ。