見た目は明らかに「草食男子」で頼りなさげを通り越し、儚げな結城。

だが、出先の作家先生たちの前で見せる顔は、凛として理路整然とし的確で、剃刀みたいに切れ味も鋭い。

颯爽としていて、しかも仕事は迅速で完璧だ。

広報部から編集部に異動して半月。
紗世は結城の失敗やミスを全く見ていない。

結城の武勇伝的なエピソードは、幾つか聞いたが失敗談は未だに聞かない。

時々、他所の出版関係者と顔を合わせる。

談笑している彼らが結城を見ると一瞬、凍りついたように強張った表情を見せる。

「嫌な奴に会ったな」的な顔で、御座なりな笑顔を向けてくる。

「結城くん、先生のご機嫌はどうだった?」と訊ねてくる者もいる。

結城は決まって「上々でしたよ」とこたえる。

結城の後は「作家がリラックスモードに入り、仕事がやりにくい」という下馬評もある。