「結城さん、ゆっくり休んでくださいね」

「ありがとう」

結城は、自棄に素直だ。

紗世は机の上を整理し、編集長に挨拶して、結城と編集部を出てエレベーターに向かう。

――満員のエレベーターには乗れない体質なんだ


初めて交わした結城の言葉から半月。

結城は決して、満員のエレベーターには乗らない。

エレベーターを降り、結城は「校正問題、復習しろよ。で、結城マニュアルはちゃんと読んで理解しろよ」と穏やかに言う。

ニコリ素直に「はい」と頷いた紗世。

結城は「いい返事だ」と軽く紗世の頭を撫で、1人玄関を出る。

紗世がスマホを取り出し、嬉しそうに、メールする姿を確認して……。

――紗世、残業ないの?
えっと……「カメリア」で待ってて

紗世は、愛里のメールを確認して、半月分の出来事を思い浮かべる。