原稿の口述筆記は、何度か脱線を繰り返しながらも、何とか連載分まで仕上げて。

西村の確認を得てひと息つき、紗世が西村に名刺を渡そうとするのを、結城はさりげなく制する。

「先生。麻生に用がある時は、俺を通し連絡してください」

西村は憮然とし、結城を睨む。

「新人ですから、仕事はしっかり教えたいんです。いい加減な仕事を覚えさせたくありませんから」

結城は真剣な顔で、西村を睨み返し訴える。

「結城くん、はっきり言ってはどうかね。ワシが前のお嬢さんの噂、知らないとでも!?」

結城の肩がビクッと跳ね、顔が強張り体が微かに震えている。

――結城……さん?

紗世は不安で声も出せない。

「そうですね。俺は部下に2度と、あんな思いはさせたくないんです。俺の預かり知らぬ所で部下が傷つくのは、もう嫌なんです」