「紗世ちゃん、大丈夫かい? 結城くんのスパルタ式に耐えられるかい!?」

紗世は給湯室から見た、結城が黒田に頭を下げる光景と言葉を思い出す。

凛とした真剣な姿が紗世の脳裏に焼き付いている。

先ほど西村の何気ない言葉に、結城の見せた強張った顔と震えていた手。

結城特製のマニュアルは手書きで丁寧に、詳細なイラストまで描き、色分けまでして、紗世を退屈させなかった。

――取説みたいだと、引き出しの肥やしになるだろう

紗世は結城の言葉を思い出し、あんな気配りをする人が厳しいだけとは思えない。

「先生、結城さんはスパルタ式なんかではないです。結城さんは優しいです」

紗世はキュッと胸に、マニュアルを抱き締める。

「麻生――何言ってるんだか、意味がわからない」

西村は「いいコンビになりそうだ」ニンマリと笑う。