――ブラインドタッチ……手元を、キーボードを全く見てない。
それに……何この速さ!? 指が見えない

紗世はポカンと口を開け、結城のタイピングを見つめる。

15分経過ごとに、結城のスマホがアラームを鳴らす。

「先生、休憩しましょう」

結城は1時間経過のアラームが鳴った所で、パソコン画面から目を外す。

「麻生……おい、麻生」

結城は紗世の頬を軽くつねる。

「!!痛いっ。痛いじゃないですか、頬っぺたつねるなんて!?」

紗世は泣きそうな顔で、頬に手をあてる。

「いい度胸だな、ミステリー作家の大御所『西村嘉行』先生の前で居眠りなんて……信じられない」

「結城さんの方が信じられませんよ~。レディの頬っぺたつねるなんて」

紗世はぷくり風船みたいに、頬を膨らませる。

結城がクスッと、小さく声を漏らす。