甘いケーキを鱈腹食べた翌朝。

紗世は朝食を食べる気にはならず、おまけに気の進まない人事異動で編集部出勤という災難。

「あ~あ~」と、大きな溜め息を溢し家を出た。

満員の通勤電車に揺られ、会社ビルに着き、さらに満員間違いなしのエレベーターの前に立つ。

円山夏樹出版社。

汗くさいオヤジや化粧の匂いのキツイお局、さらにどぎつい香水漬けの社長秘書が、列を成している。

そこへ、自棄に爽やかな青年が現れるなり、黄色い奇声が沸き上がった。

――えっ、何!?

紗世が奇声のした方を振り返ると、アイドル顔負けのイケメンが涼しい顔で微笑んでいる。

――アイドル!?

紗世は青年が間近に並ぶと、目を皿のようにして見つめる。

淡い茶色のふわふわした髪、パッチリした二重の目、爪楊枝が軽く数本乗りそうな長い睫毛、高すぎず低すぎない整った形の鼻、薄く品の良い薄紅を引いたような唇。