結城が給湯室を覗き、紗世に声をかける。

黒田が結城を一瞥し、フッと小さく溜め息をつく。

「えーっ!? お茶淹れて来いって言ったじゃないですか~?」

紗世は間の抜けた様子で、ぼやく。

結城は紗世の顔をチラと見て「化粧直してこい、10分だけ待ってやる」と冷たく言う。

――涙の跡。あんなことで……

結城は紗世の後ろ姿を見つめチッと、舌打ちをする。

――もう、部下を辞めさせない、俺のせいで

結城は拳を握りしめる。

掌に爪の痕が残るほど強く。

――もう、あんな思いは……したくない

結城はデスクの上、伏せた写真立てに、目を落とす。

そして……手の甲に刻まれた、まだ変色している傷を見つめる。

――もう、……あんな思いはしない。2度と……