「『結城由樹は担当した作家の原稿を絶対落とさせない』とまで噂されてる、その『結城由樹』が……私に頭を下げるのね。あんな小娘のために……」

結城が頭を下げたまま、再び「お願いします」と言う。

「わかったわ」

「ありがとうございます」

結城は、やっと頭を上げ黒田に微笑む。

「でも、もし貴方が無理して倒れるようなことがあったら、私は容赦しないから」

結城は「はい」とこたえ黒田から視線を外す。

カツカツと甲高く響くヒール音。

給湯室から、様子を見ていた紗世の目から大粒の涙が、頬を伝った。

結城は鞄にミネラルウォーターのペットボトルを押し込み、机の引き出しを開けファイルを取り出す。

パラパラとファイルを確認し「良し」と頷き、鞄に入れる。

「麻生、モタモタしてると置いていくぞ」