そして、目を覆うように被せた前髪を上げ、黒縁の眼鏡を外し、素顔を晒して。

再度、深く頭を下げた。

容赦なくフラッシュライトが浴びせられる。

1年半もの間。
聴唖で喋れないという以外は、公に正体の知られていない新進作家「万萬詩悠」の謝罪会見。

結城は、万萬詩悠として晴れやかに、凛として会見する。

西村嘉行、梅川百冬、沢山江梨子も自宅で、謝罪会見の模様を観ていた。

相田は彼女の入院する病院で。

小今田と浅田は、処分決定のため呼び出された副社長室で。

黒田は西村嘉行の自宅で。
紗世は会場の隅で見守っていた。


「出版社の社員でありながら、ゴースト疑惑などという騒ぎを起こしたこと、申し訳ありませんでした。
今後も、ペンネーム万萬詩悠として正体素性を偽ることなく作品を書かせていただきます」