結城は紗世から電子辞書を受け取り、文字を入れ漢字を確かめると「いい加減だな」と呟く。

「由樹、少し休憩しなさい」

詩乃が結城の肩に、そっと手を置く。

結城はフウーッと大きく息をつき、胸を押さえる。

――こんなことではお荷物にしかならない

結城は乱れる呼吸を整える。

詩乃が結城の背をゆっくり擦る。

「詩乃……俺は退院しても、養生なんかしない。引きこもっているなんて、真っ平だ」

「由樹……今まで通りには体が」

「それでも俺は、早く仕事がしたい」

結城は凛として言い放ち、タイピングを再開する。

「万萬詩悠の件は、きっちり白黒つける。中途半端にはしない」

結城の言葉に迷いは感じられない。

超高速で、文字が画面を埋めていく。

「万萬の件も、体のことも、迷惑をかける……黒田さんにも、紗世にも心配をかけると思う。今まで以上に」